マンションの防災|元消防士が教える「在宅避難」と高層階特有の備え
「うちはマンションだから、戸建てより安全」——たしかに、新しいマンションは耐震性が高く、建物が倒壊するリスクは低いです。
でも、それで安心はできません。マンションには、戸建てとはまったく違う弱点があります。
停電で水が止まる。エレベーターが止まって、高層階に閉じ込められる。高い階ほど、揺れが大きく長く続く——。
この記事では、消防歴15年で見てきた集合住宅の現場と、内閣府・国土交通省のガイドラインをもとに、マンションならではのリスクと、在宅避難を生き延びる備えを解説します。
まもる マンションって、地震が来ても倒れにくいから安心、って聞きました。それなら備えはあまり要らないんですか?
ケン 建物が頑丈なのは本当だよ。でも、だからこそ「家にとどまる」ことになる。そのとき水もトイレも電気も止まる——マンションの備えは、戸建てとは別物なんだ。
この記事でわかること
マンションは「在宅避難」が基本
まず押さえてほしい大前提があります。それは、マンションの防災は「在宅避難」が基本だということ。
耐震基準を満たした新しいマンションは、地震で倒壊する可能性が低く、火災にも比較的強い構造です。そのため、無理に避難所へ行くより、自宅にとどまるほうが安全なケースが多いのです。
避難所は数に限りがあり、ペットや小さな子、プライバシーの問題もあります。建物が無事なら、住み慣れた自宅で過ごすほうが、心身の負担も少ない。
災害対応の現場でも、「マンションの方は、まず自宅の安全を確認して、危険がなければ在宅避難を」と案内することが増えています。ただし、これは「家で生き延びる備え」があることが前提です。水も食料もトイレも止まった部屋に、ただ閉じこもるわけにはいきません。次の備えが命綱になります。
マンション特有の3つのリスク
戸建てにはない、マンションならではのリスクが3つあります。
① 停電すると、水が止まる
これが、見落とされがちな最大の盲点です。
多くのマンションでは、水を各階へ送るのに電気のポンプを使っています。そのため、停電すると、断水していなくても蛇口から水が出なくなるのです。
しかも、断水中はトイレも流せません。無理に流すと、地震で損傷した排水管から下の階へ漏水する恐れもあります。水とトイレの備えが、戸建て以上に重要になります。
② エレベーターが止まる
地震や停電でエレベーターが止まると、高層階の生活は一変します。
水や食料を買っても、階段で何十段も運び上げることになる。高齢者や小さな子がいる家庭、ケガ人が出た場合は、外出そのものが困難になります。
だからこそ、「買い出しに行けない前提」で、家に備蓄しておくことが大切です。
③ 高層階ほど、揺れが大きく長い
高い建物は、地震のときにゆっくり大きく揺れる性質があります(長周期地震動)。
高層階では、揺れが増幅され、長く続きます。その結果、家具が大きく移動・転倒し、室内が危険な状態になりやすいのです。
まもる 停電で水が止まるなんて、考えたこともなかったです…!
ケン マンションの人が一番驚くのが、これなんだ。「断水していないのに水が出ない」。だから、停電・断水・トイレをセットで備えるのが、マンション防災の核心だよ。
高層階ほど備えを厚くする
3つのリスクを踏まえると、マンションで特に厚くすべき備えが見えてきます。
家具の固定(高層階は必須)
揺れが大きい高層階ほど、家具の固定は欠かせません。固定していない家具は、凶器になり、避難経路もふさぎます。やり方は家具の固定の記事で詳しく解説しています。
携帯トイレ(断水対策の最重要アイテム)
マンション防災で、水と同じくらい大事なのが携帯トイレです。停電・断水でトイレが流せなくなる前提で、家族の人数×日数分を備えましょう。
水の備蓄(エレベーターが止まっても困らない量)
エレベーターが止まれば、水を買いに行くのも運ぶのも一苦労。1人1日3リットルを目安に、最低3日分、できれば7日分を家に置いておきます。
食料の備蓄(火・水がなくても食べられるもの)
買い出しに行けない前提で、調理不要で日持ちする食料を備えます。普段の食料を少し多めに買って循環させる「ローリングストック」が現実的です。
水・食料の備蓄の進め方は、ローリングストックの記事も参考にしてください。
ベランダの避難経路をふさがない
意外と知られていませんが、マンションのベランダは「避難経路」です。
- 隣の住戸との間にある仕切り板(隔て板)は、いざというとき蹴破って隣へ避難するためのもの
- 床にある避難ハッチは、下の階へ降りるための脱出口
エアコンの室外機、物置、自転車などでふさいでしまうと、いざというとき逃げられなくなります。一度、自宅のベランダを確認してみてください。
火災のとき、玄関側が煙や炎で通れないことがあります。そのときの命綱がベランダの避難経路です。「普段使わないから」と物置にしてしまうと、本当に必要なときに使えません。これは自分だけでなく、隣の住人の避難にも関わります。
管理組合と近所との共助
マンションは、「共助」が効きやすい住まいでもあります。同じ建物に多くの人が住んでいるからです。
- 管理組合の防災活動に参加する(防災備蓄、安否確認の仕組み)
- 災害時の安否確認の方法を決めておく(ドアに無事を知らせる札を貼る等)
- 高齢者や要配慮者がどの部屋にいるかを、平時に把握しておく
エレベーターが止まれば、高層階の住人は孤立します。「困ったときはお互いさま」の関係を、平時から作っておくことが、いざというときに効いてきます。
まもる マンションって、ご近所と助け合いやすいんですね。
ケン そう。同じ建物に大勢いるからこそ、声をかけ合える。エレベーターが止まったとき、上の階の高齢の方を気にかけられるか——その一声が、命をつなぐこともあるんだ。
まとめ|マンション防災は「在宅避難」を生き延びる備え
| ポイント | 要点 |
|---|---|
| ⭐⭐⭐ | マンションは在宅避難が基本。「家で生き延びる備え」を整える |
| ⭐⭐⭐ | 停電=断水+トイレが流せない。携帯トイレと水を厚めに |
| ⭐⭐⭐ | エレベーター停止に備え、買い出し不要の備蓄を |
| ⭐⭐ | 高層階ほど揺れが大きい。家具の固定は必須 |
| ⭐⭐ | ベランダの避難ハッチ・隔て板の前に物を置かない |
| ⭐ | 管理組合・近所との共助を平時から育てる |
マンションは、地震そのものには強い住まいです。でも、その「強さ」ゆえに在宅避難となり、停電・断水・閉じ込めという別の壁にぶつかります。
戸建てとは違う、マンションならではの備えを。まずは携帯トイレと水を、人数分・3日分から。それが、わが家の在宅避難を支える第一歩です。
今日やること:自宅のベランダを見て、避難ハッチや隔て板の前に物が置かれていないか確認する。ふさいでいたら、今日どけておきましょう。
参考・出典
- 内閣府「防災情報のページ/在宅避難」
- 国土交通省「マンションにおける災害対応の手引き」
- 東京都「東京防災」「マンション防災の手引き」
- 総務省消防庁「住宅防火・地震対策」