防災は何から始める?|元消防士が教える「最初の3つ」と正しい優先順位
「そろそろ備えなきゃ」と思ってネットで調べる。でも情報が多すぎて、結局なにも買わないまま閉じてしまう——。
そういう方は、とても多いです。責める気はまったくありません。防災の情報は量が多く、しかも「あれも必要、これも必要」と書かれているので、途中で疲れてしまうのが自然です。
だから、この記事では順番だけをお伝えします。上から順に、できるところまでで大丈夫です。
まずやるべきは、この3つだけです。
- 自宅の危険を知る(ハザードマップを見る・5分)
- 家具を固定する(寝室からでOK)
- 水と食料を備える(1人1日3L・まず3日分)
この3つが終わってから、防災グッズを買っても遅くありません。
まもる 防災を始めたいんですけど、調べれば調べるほど何から手をつければいいかわからなくなって…。
ケン それ、いちばん多い悩みなんだ。だから今日は「全部」じゃなく「順番」を話すよ。実は買い物から始めるのは、あまり良くない。理由も含めて説明するね。
この記事でわかること
なぜ「防災グッズを買う」から始めてはいけないのか
防災を思い立つと、多くの人がまず「防災セット」を検索します。気持ちはよくわかります。買えば、目に見えて備えた感じがしますから。
でも、現場を15年見てきて思うのは、順番が逆だということです。
理由は3つあります。
- 自宅のリスクを知らないと、必要なものが決まらない。浸水する地域と、揺れやすい地域では、備えるべきものが変わります
- 家具の下敷きになったら、リュックの中身は使えない。どんなに完璧な備蓄も、最初の数秒を生き延びなければ意味がありません
- 買っただけで満足して、そこで止まる。これがいちばん多い失敗です
どちらも、お金はほとんどかかりません。
ステップ1|自宅の危険を知る(5分)
いちばん最初にやるのは、自分の家がどんな災害に弱いかを知ることです。
同じ日本でも、地域によってリスクはまったく違います。
- 川の近くなら → 洪水・浸水
- がけや山のそばなら → 土砂災害
- 海の近くなら → 津波
- 埋め立て地なら → 揺れやすさ・液状化
これを調べるのが、ハザードマップです。お住まいの自治体のサイトか、国土交通省の「重ねるハザードマップ」で、住所を入れるだけで確認できます。
見るのは自宅だけではありません
通勤・通学路、子どもの学校、よく行く場所も見てください。災害は家にいるときだけ起きるわけではないからです。
「うちは浸水の心配はないが、揺れやすい地域だ」とわかれば、家具の固定を優先すべきと判断できます。逆に浸水リスクが高いなら、避難場所とタイミングの確認が先です。最初にここを知ると、あとの判断が全部ラクになります。
ステップ2|家具を固定する
次にやるのは、部屋を安全にすることです。
意外に思われるかもしれませんが、地震でケガをする最大の原因は、建物の倒壊ではありません。倒れてきた家具です。近年の大きな地震では、けが人の3〜5割が家具の転倒・落下によるものと報告されています。
そして、家具の下敷きになってしまえば、備蓄した水も食料も使えません。
最優先は「寝室」
全部の部屋を一度にやる必要はありません。まず寝室からです。
理由ははっきりしています。起きているときは、揺れに気づいて身を守れます。でも寝ているときは無防備です。
一度、寝室で横になって、周りを見回してみてください。「寝ている自分の上に、何が倒れてくるか」——その視点で見ると、危険な家具がはっきり見えます。
固定の方法は、持ち家ならL字金具、賃貸なら突っ張り棒、テレビや電子レンジには耐震ジェル。お金をかけずにできる最強の対策は「配置換え」です。寝室に背の高い家具を置かない。それだけで大きく変わります。
まもる グッズを買うより先に、部屋の安全なんですね。考えたこともなかったです。
ケン そう。揺れた瞬間に生き延びられなければ、その後の備えは使えないんだ。だから家具固定は、すべての備えの土台になる。しかも突っ張り棒なら数千円で済むよ。
ステップ3|水と食料を備える
ここでようやく「備蓄」です。
必要な量は、計算で出せる
水は1人1日3リットル(飲む分+調理に使う分)。これに家族の人数と日数をかけます。
| 家族の人数 | 3日分 | 7日分(推奨) |
|---|---|---|
| 1人 | 9L | 21L |
| 2人 | 18L | 42L |
| 4人 | 36L(2L×18本) | 84L |
「思ったより多い」と感じたはずです。国(農林水産省)の推奨は「最低3日、できれば1週間」。大きな災害では、店の棚から水も食料も消え、それが1週間以上続くことがあります。
まずは3日分から
いきなり1週間分をそろえる必要はありません。まず3日分。それができたら、少しずつ増やせば大丈夫です。
食料は、火や水がなくても食べられるものを中心に。普段から食べているものを少し多めに買って、古いものから消費していく「ローリングストック」なら、特別な防災食を買わなくても備蓄になります。
備蓄でいちばん抜けやすいのがトイレです。食べて飲めば、必ずトイレが必要になります。しかも断水すると水洗トイレは使えません。必要な数は「1日5回 × 人数 × 日数」。4人家族の3日分で60回分です。詳しくは災害用トイレ完全ガイドへ。
ここまでできたら|次の6つ
ステップ3までできたら、あなたはもう「備えている人」です。ここから先は、余裕のあるときに1つずつで構いません。
①|家族との約束を決める
災害時、電話はつながりません。「どこで落ち合うか」「どう安否を確認するか」を決めておくことが、モノより大事な備えになります。災害用伝言ダイヤル171の使い方も、家族で共有を。
②|防災リュックを用意する
ここで、ようやく「持ち出す備え」です。ポイントは軽さ。詰め込みすぎて背負えないリュックは、いざというとき役に立ちません。
③|明かりと電源を確保する
どんな災害でも、ほぼ必ず停電します。まずはモバイルバッテリーを家族分。両手が使えるヘッドライトもあると安心です。
④|情報を得る手段を持つ
スマホが切れ、通信も混み合ったとき、最後まで情報を届けてくれるのがラジオです。「多電源+ワイドFM」だけ押さえれば失敗しません。
⑤|火災に備える
住宅用火災警報器は10年で交換、消火器は約5年が期限です。実家に何十年も前の消火器が置きっぱなし、という家庭は少なくありません。
マンションにお住まいなら、建物に付いている消防用設備の使い方も知っておくと安心です。ベルが鳴ったときの行動を知っているかどうかで、逃げ出すまでの時間が変わります。
- 👉 自動火災報知設備の仕組み|元消防士が教えるマンションのベルが鳴ったときの正解
- 👉 屋内消火栓の使い方|元消防士が教える「1人で使えるか」はマンションによって違う
- 👉 マンションの避難器具|元消防士が教える「隔て板は破っていい」と煙から離れる判断
⑥|避難したあとを知っておく
備えがそろってきたら、「避難所ってどんな場所か」も知っておいてください。実は、行けば全部そろっているわけではありません。処方薬・メガネ・耳栓などは支給されず、自分で持っていくしかないものがあります。
持病があって医療が欠かせない方(人工透析・在宅酸素など)は、平時のうちに連絡先と行き先を決めておくことが命を守ります。
家族構成別・追加でやること
ここまでは「全員共通」です。ここからは、あなたの家庭に合わせて足してください。
| 家族構成 | 追加ですべきこと | 詳しい解説 |
|---|---|---|
| 赤ちゃんがいる | 液体ミルク・紙おむつ・抱っこ紐 | 赤ちゃんと災害 |
| 小さな子がいる | 学校・園の引き渡しルール確認 | 家族の約束 |
| 女性 | 生理用品・防犯ブザー・大判ストール | 女性の防災 |
| 高齢の家族 | 常備薬1か月分・お薬手帳・福祉避難所の確認 | 高齢者の防災 |
| ペットがいる | フード・ケージ・迷子札 | ペットの防災 |
| マンション住まい | 停電=断水になる想定・在宅避難の備え・消防用設備の使い方 | マンションの防災/自動火災報知設備 |
| 戸建て住まい | 倒壊・延焼・浸水への対策 | 戸建ての防災 |
| 車をよく使う | 車載防災・冠水路に入らない判断 | 車の防災 |
| 電車通勤 | 「歩いて帰らない」判断・通勤カバンの備え | 帰宅困難者の備え |
| 持病・医療が必要 | 薬1週間分+お薬手帳の写真・かかりつけ医に災害時の相談・福祉避難所の事前確認 | 避難所生活のリアル |
まもる 順番がわかると、ぐっとハードルが下がりますね!
ケン そう。防災は点数をつけるものじゃない。ゼロか100かでもない。去年より1つ増えていれば、それは前進なんだ。今日はステップ1だけでも十分だよ。
よくある質問
読者の方からよくいただく質問に、まとめてお答えします。
Q. 予算はいくらくらい必要?
最初の3ステップなら、1〜2万円程度が目安です。ハザードマップの確認は無料、家具の固定は突っ張り棒や耐震ジェルで数千円、水と食料の3日分も数千円で始められます。防災セットを買う前に、この順番で進めるほうが結果的に安く、そして確実です。
Q. 一人暮らしでも必要?
むしろ必要です。 一人暮らしは、助けを呼ぶのも備えるのも自分だけ。家族がいれば誰かが気づいてくれますが、一人だとそれもありません。特に家具の固定と水・食料、そしてスマホの電源は優先度が高いです。
Q. 賃貸なので家具を固定できません
壁に穴を開けない方法があります。 突っ張り棒(家具と天井の間で突っ張る)、耐震ジェル(家具の底に貼る)、粘着式のベルトなど、原状回復できるものが各種あります。それも難しければ、配置換え(寝室に背の高い家具を置かない)だけでも効果は大きいです。
Q. 備蓄品の置き場所がありません
分散して置くのがコツです。全部を1か所にまとめる必要はありません。押入れ、ベッドの下、クローゼットの上、玄関収納——数本ずつ分けて置けば、案外入ります。しかも分散しておけば、一部が取り出せなくなっても残りが使えます。
Q. 全部やるのに、どれくらいかかりますか?
1つずつなら、数か月かけて構いません。 今日ハザードマップを見て、来週末に突っ張り棒を買って、来月水を1ケース——このペースで十分です。大事なのは速さではなく、止まらないことです。
Q. 何年も前に買った防災グッズがあります
中身の点検をおすすめします。 食料・水・電池・常備薬には期限があります。とくに電池は液漏れしていることが多く、いざというとき使えません。防災の日(9月1日)と3月の年2回を点検日と決めておくと、忘れずに続けられます。
まとめ|今日、1つだけ動かす
| 順番 | やること | 費用の目安 |
|---|---|---|
| 1 | ハザードマップで自宅の危険を知る | 0円(5分) |
| 2 | 寝室の家具を固定する | 数千円 |
| 3 | 水と食料を3日分そろえる | 数千円 |
| 4 | 家族との約束を決める | 0円 |
| 5 | 防災リュック・電源・ラジオ・火災対策・避難所の知識 | 順次 |
防災は、完璧を目指すと必ず途中で止まります。でも、順番さえわかっていれば、少しずつ確実に前に進めます。
現場にいたころ、被災した方によく言われた言葉があります。「まさか、自分のところに来るとは思わなかった」。備えていた人も、いなかった人も、みんなそう言います。
違うのは、そのあとです。備えていた人は次の一手を打てる。備えていなかった人は、まず何かを探すところから始めることになります。
今日やること:この記事を読み終えたら、ハザードマップで自宅の住所を入れてみてください。5分で終わります。それが、あなたの防災の第一歩です。
参考・出典
- 内閣府「防災情報のページ/非常持ち出し品・備蓄品チェックリスト」 ― 備えの全体像・優先順位に関する出典。
- 農林水産省「家庭備蓄ポータル」 ― 水と食料の必要量(1人1日3L・最低3日、できれば1週間)の根拠。
- 国土交通省「重ねるハザードマップ」 ― 自宅の災害リスク確認方法に関する出典。
- 総務省消防庁「地震による家具の転倒防止対策」 ― 地震によるけがの原因に占める家具転倒の割合に関する根拠。