消防士の視点

屋内消火栓の使い方|元消防士が教える「1人で使えるか」はマンションによって違う

※ 本記事にはアフィリエイト広告が含まれています。紹介する商品は、執筆者が現場経験をもとに調査・検討したうえで掲載しています。
マンションの廊下にある、「消火栓」と赤い字で書かれた縦長の箱。あれが屋内消火栓です。使い方を知っている人は、ほとんどいません。

正直に言うと、僕は住民の方が屋内消火栓を使っている現場を、見たことがありません。

多くの場合、みなさんは通報して避難していました。命を守る行動として、それは正しい判断です。

でも、理由はそれだけではないと感じています。そもそも、使い方が知られていないのです。

屋内消火栓は、火が小さいうちに消し止めるための設備です。安全にできる状況なら、住民が使う場面は普通の火災でもあります。

💡 この記事はシリーズの2本目です

マンションには、住民が使う可能性のある消防用設備がいくつもあります。でも、その使い方はほとんど知られていません。
1本目は自動火災報知設備でした。今回は屋内消火栓です。

まもる(worry) まもる

廊下にある「消火栓」の箱、開けたこともありません。使い方も知らなくて…。

ケン(nod) ケン

知らせる、通報する、逃げる。その順番が最優先なのは変わらない。でもね、火がまだ小さいうちなら、消し止められることがある。屋内消火栓は、そのための設備なんだ。

この記事でわかること

まず結論|順番を間違えない

先に、いちばん大事なことをお伝えします。

火事を見つけたとき、いきなり消火に飛びつかないでください。

①周りに知らせる → ②119番通報 → ③消火するか、逃げるかを判断する

知らせることと通報は、何があっても先です。1人しかいないなら、大声で知らせながら通報してください。

そのうえで、消火するか逃げるかを判断します。どちらを選ぶかは、火の大きさで決まります。判断の基準はこの記事の後半で詳しく説明します。

消火栓を使おうとして逃げ遅れるくらいなら、何もせず逃げてください。設備より、あなたの命のほうが大事です。

初期消火は、普通の火災でも有効です

ここを誤解してほしくないので、はっきり書きます。

屋内消火栓は、大地震のためだけの設備ではありません。

普通の火災でも、火が小さいうちなら、住民が消し止められることがあります。そして早く消せれば、燃え広がる前に終わります。それが「初期消火」で、屋内消火栓はまさにそのための設備です。

消防隊が到着するまでには、通報から数分かかります。その数分のあいだに火は育ちます。 早く消せるかどうかで、結果は大きく変わります。

💡 ただし、条件があります

初期消火に踏み込んでいいのは、安全が確保できる範囲だけです。
通報と、周りに知らせることを済ませてから。そして、火が天井に届いていないこと。この2つが満たせないなら、消火はしないでください。

大きな地震では、役割がもっと重くなる

普通の火災でも有効な設備ですが、大きな地震のときは、その重みがまるで変わります。

阪神・淡路大震災では、地震が原因とみられる火災が285件発生しました。しかも、そのほとんどが地震直後に、同時多発的に起きています。

消防車の数には限りがあります。同じ時間に何十件も火事が起きれば、全部には行けません。内閣府の資料も、このとき消防力の限界が明らかになったと記録しています。

実際、あのとき何が起きていたか。

  • 住民によるバケツリレー
  • 地域の企業の自衛消防隊による消火活動
  • そして、病院の屋内消火栓のホースを使って、近隣の民家の火災を消し止めたという記録

つまり、消防が来られない時間帯を、その場にいた人がしのいだのです。

⚠️ 消防が来られない時間が生まれる

普通の火災なら、通報すれば消防はすぐ向かいます。
でも大きな災害で消防力が足りなくなったとき、そこにある設備を使えるのは、そこにいる人だけです。使い方を知っているかどうかが、そのまま結果を分けます。

正直に言うと、使い方を知らない住民がほとんどだと感じています。普通の火災でも、大きな地震でも、知っている人が1人いるだけで変わります。だからこそ、平時のうちに知っておいてほしいのです。

屋内消火栓とは|消火器との決定的な違い

消火器との違いは、水の量と、出し続けられる時間です。

消火器屋内消火栓
使える時間約15秒約20分(法令上の基準)
箱から届く範囲手に持って近づく15〜25m(ホースの長さぶん)
移動持ち運べる箱の場所から動けない
準備すぐ使えるホースを伸ばす手間がある

消火器は15秒で空になります。天井まで火が上がる前の、ごく初期しか消せません。

屋内消火栓は、そこが違います。ただし無限に出るわけではありません

⚠️ 水は無限ではありません|約20分が目安

消防法施行令は、屋内消火栓のための水源の量を決めています。1号なら1台あたり2.6立方メートル、2号なら1.2立方メートル。
これはそれぞれの放水量で20分間出し続けられる量です(1号なら毎分130L×20分=2,600L)。
つまり出しっぱなしにできる時間は、およそ20分。しかも同時に使えるのは基準上2台までです。この20分で消えないなら、それは住民の手に負える火ではありません

消火器の15秒に対して、20分。この差は大きいです。消火器では届かない段階の火にも手が出せます。ただし時間は限られている——ここを知ったうえで使ってください。

消火器の使い方は消火器の使い方の記事にまとめています。

1人で使えるかは「種類」で決まる

ここが、この記事でいちばん知ってほしいところです。

屋内消火栓には種類があり、1人で使えるものと、そうでないものがあります。

種類1人で使えるか放水量届く範囲
1号消火栓原則2人以上130L/分25m
易操作性1号消火栓1人でOK130L/分25m
2号消火栓1人でOK60L/分15m
広範囲型2号消火栓1人でOK80L/分25m

1号消火栓は、原則2人以上必要です。ホースを伸ばす人と、バルブを開ける人が要るからです。1人でノズルを持ったままバルブまで戻る、ということができません。

古い建物には、この1号がまだ多く残っています。

⚠️ 夜中に1人で火事を見つけたら

自分のマンションのものが1号(2人必要)なら、1人では放水まで持っていけません。
そのときは無理をせず、通報と避難、そして周りへの声かけに切り替えてください。人を呼べたなら、2人で使えます。

見分け方|ホースの形を見ればわかる

では、自分のマンションのものがどれなのか。

先に、よくある誤解をひとつ。扉の表示を見ても、種類はわかりません。

消防法施行規則で義務づけられている表示は「消火栓」の3文字だけです。種類まで書く決まりはないため、現場のほとんどは「消火栓」としか書かれていません

見分けるなら、中のホースの形を見てください。

ホースの見た目種類
平たく折りたたまれている1号❌ 2人以上
丸く巻いてある(ホースリール)易操作性1号・2号⭕ 1人でOK
屋内消火栓の見分け方の図解。1号屋内消火栓はホースが平たくたたんで掛けられ、ノズルは別に1本ついていて、操作に2人以上が必要。易操作性1号屋内消火栓はホースが巻かれて収納され、先端にノズルがついていて1人で操作できる。2号屋内消火栓もホースが巻かれて収納され、ノズルはホースと一体の直結型で1人で操作できる。扉の表示はどれも「消火栓」で種類は書かれておらず、ホースの色は製品によって違うため色では見分けられない。
ホースの形が見分けるポイントです。スマートフォンでは、画像をタップすると大きく表示できます。

平たく折りたたまれたホースは、全部伸ばしきらないと水が流せません。だから人手が要ります。

丸く巻いてあるホースは、必要な分だけ引き出して、そのまま放水できます。1人で扱えるように作られた形です。

なお、ホースの色では判断できません。青いもの、白いもの、いろいろあります。見るのは色ではなく、たたまれているか、巻かれているかです。

💡 扉を開けていいのか、と思った方へ

扉を開けるだけなら、何も起きません。ただし中の物には手を触れないでください。1人操作型は、ノズルを取り出したり開閉弁を回したりすると、それだけでポンプが動き出します。
気が引けるなら、無理をせず管理会社や管理組合に「うちの消火栓は1人で使えますか」と聞いてください。消防用設備の点検報告書に種類が記載されているので、確実な答えが返ってきます。

使い方の手順

ここも種類で分かれます。違うのは、水を送り出すポンプが、どうやって動き出すかです。

1号消火栓の場合(2人以上)

1. ポンプを起動する

方法は建物によって2通りあります。自動火災報知設備の発信機(廊下の赤い押しボタン)を押すか、消火栓の箱の中にある起動スイッチを押すかです。どちらもポンプが回り、ベルが鳴ります。

2. ノズルを持ち、ホースを全部伸ばす

平たく折りたたまれたホースは、伸ばしきらないと水が流れません

3. もう1人が開閉弁を開く

ここで放水が始まります。この役が要るから、2人以上必要なのです。

易操作性1号・2号消火栓の場合(1人)

1. ノズルを取り出す、または開閉弁を開く

これだけで、ポンプが自動的に起動します。ボタンを探す必要はありません。

2. 必要な分だけホースを引き出し、火元へ向かう

3. ノズルの開閉装置を開いて放水する

⚠️ 中を見るだけのつもりでも、触らない

1人操作型は、ノズルを取り出したり開閉弁を回したりすると、それだけでポンプが動き出します
確認のために扉を開けるのは構いませんが、中の物には手を触れず、見るだけにしてください。

どちらにも共通すること

  • 必ず逃げ道を背にして立つ(火と出口の間に自分がいる形)
  • 炎ではなく、燃えている物そのものを狙う
  • ノズルは両手で持ち、脇を締める
まもる(surprise) まもる

ノズルを取り出すだけで水が出るタイプがあるんですね。知りませんでした…。

ケン(think) ケン

そう、そこが1号と違うところ。だから1人でも使えるように作られているんだ。あと放水が始まると、ノズルは思ったより反動がある。頭で知っていても、初めてだと驚くよ。

消していい火と、逃げるべき火

これはとても大事な線引きです。消火器のときと同じ基準になります。

火が天井に届いていたら、消火はあきらめて逃げてください。

天井まで火が回ると、そこから一気に燃え広がります。そうなったら、屋内消火栓でも止まりません。

判断の目安は、この3つです。

こうなったら判断
火が自分の背より低い・天井に届いていない消火を試してよい
火が天井に届いた逃げる
煙が充満してきた・視界が悪い逃げる

そして、これも忘れないでください。

  • 必ず逃げ道を背にする(火に近づく形で行き止まりに入らない)
  • 1人でやらない(誰かに通報を頼み、状況を見てもらう)
  • 少しでも危ないと思ったら、その時点でやめる
  • 水には限りがある(およそ20分)。粘っているうちに水が尽きると、消火も避難もできなくなります
⚠️ 設備より、あなたの命

消そうとして煙を吸うと、数回で動けなくなります。火災で亡くなる原因の多くは、炎ではなくです。
迷ったら逃げる。これは臆病ではなく、正しい判断です。

箱の前に物を置かない

最後に、今日からできることをひとつ。

消火栓の箱の前に、物が置かれていることが実際にあります。 自転車、段ボール、置き傘、季節物の荷物。

火事のときは、扉を開けてホースを引き出すまでが勝負です。その前に物をどける数十秒が、致命的になります。

すぐ使える状態にしておくことが、使い方を覚えるのと同じくらい大事です。

自分の家の物が置かれていないか、共用廊下を一度見てみてください。もし他の住戸の物が置かれているなら、管理会社や管理組合に伝えてください。これは個人の好みの話ではなく、建物全体の安全に関わる話です。

💡 自衛消防訓練に出てみる

マンションによっては、自衛消防訓練が行われています。実際に消火栓を触れる貴重な機会です。
一度でもホースを持って放水しておくと、感覚がまったく違います。頭で知っているのと、手が覚えているのは別物です。案内が来たら、ぜひ出てみてください。

よくある質問

Q. 地震で停電していても、消火栓は使えますか?

使えるように作られています。 消防法施行規則で、屋内消火栓設備には非常電源の設置が義務づけられています。自家発電設備などがそれにあたり、停電すると自動で切り替わります。容量も、30分以上動くことが求められています。

ただし、地震で配管が壊れていれば水は出ません。操作しても水が出ないときは、粘らずに避難へ切り替えてください。

Q. 間違って使ってしまったら、弁償ですか?

火事だと思って使ったのなら、責められるべきではありません。 誤って作動させた場合も、まずは管理会社や消防に正直に伝えてください。隠して放置するほうが、次に本当に必要なときに使えなくなり、はるかに危険です。

なお、点検や復旧は建物側の責任で行われます。詳しくは自動火災報知設備の記事で、消防用設備の維持義務について解説しています。

Q. 女性や高齢者でも使えますか?

1人操作型(易操作性1号・2号)なら、扱えるように設計されています。 ただし放水の反動はあるので、両手で持ち、脇を締めてください。

不安があるなら、2号消火栓のほうが放水量が少なく(60L/分)、反動も穏やかです。自分のマンションがどれかを知っておくことが、そのまま準備になります。

Q. 水はどれくらい出ますか? 途中で止まりませんか?

法令の基準は「約20分ぶん」です。 消防法施行令が水源の量を定めていて、1号なら1台あたり2.6立方メートル。毎分130リットル出す設備なので、20分で使い切る計算です。2号は1.2立方メートルで、こちらも20分ぶんにあたります。

建物によってはこれより多くの水を蓄えている場合もありますが、無限ではないと考えてください。20分あっても消えない火は、住民の手に負える範囲を超えています。水が尽きる前に避難に切り替えてください。

Q. 消火器と消火栓、どちらを先に使いますか?

近いほうです。 火が小さい初期なら消火器で十分ですし、すぐ手に取れます。消火器で足りない、または消火器が近くにないときに、消火栓を考えてください。

Q. スプリンクラーがあるマンションなら、消火栓は不要ですか?

役割が違います。 スプリンクラーは自動で作動しますが、天井の熱を感知してからです。屋内消火栓は、人が狙って水をかけられる点が違います。どちらかがあれば安心、というものではありません。

まとめ|知っておくのは「その日」のため

ポイント要点
⭐⭐⭐順番は知らせる → 通報 → 消火か避難かを判断。知らせることと通報は必ず先
⭐⭐⭐初期消火は普通の火災でも有効。火が小さいうちなら住民が消し止められる
⭐⭐⭐火が天井に届いたら消火をやめて逃げる。煙が出てきたら即避難
⭐⭐⭐ポンプの起動方法が種類で違う。1号=発信機か箱内のスイッチを押す/1人操作型=ノズルを取り出すか開閉弁を開くと自動で起動
⭐⭐1号は2人以上必要。易操作性1号・2号・広範囲型2号は1人で使える
⭐⭐見分け方はホースの形。平たい=1号/丸く巻いてある=1人操作型(扉の表示は「消火栓」だけで種類はわからない
⭐⭐水は無限ではない。法令の基準は約20分ぶん。粘りすぎない
⭐⭐箱の前に物を置かない。数十秒の遅れが致命傷になる
放水には反動がある。両手で持ち、脇を締める
自衛消防訓練に出て、一度触っておく
屋内消火栓は、火が小さいうちに消し止めるための設備です。

普通の火災でも、安全にできる範囲なら住民が使う場面はあります。消防隊が着くまでの数分で、火は育ちます。早く消せるかどうかで結果は変わります。

そして大きな地震のときは、その消防隊自体が来られないことがあります。阪神・淡路大震災では、実際に住民や地域の人たちが火を止めました。どちらの場面でも、使い方を知っている人が要るのです。

今日やること:自分の階の消火栓の扉を開けて、ホースの形を見てください。平たく折りたたまれていれば1号(2人必要)、丸く巻いてあれば1人で使えます。1分で終わります。それだけで、いざというとき「1人でやれるのか、人を呼ぶのか」が即座に判断できます。

参考・出典

  • 消防法施行令第11条 ― 屋内消火栓設備の設置基準、および1号・2号・広範囲型2号の放水量・水平距離に関する出典。
  • 消防法施行令第11条第3項 ― 水源水量の基準(1号:設置個数〈最大2〉×2.6立方メートル以上/2号:同×1.2立方メートル以上)に関する根拠。それぞれの放水量で20分間の放水にあたる。
  • 消防法施行規則第12条 ― 屋内消火栓設備の非常電源(自家発電設備等・30分以上)、および屋内消火栓箱の表面に「消火栓」と表示する義務(第3項第3号イ)に関する根拠。
  • 消防庁告示(屋内消火栓設備の屋内消火栓等の基準) ― 易操作性1号消火栓の性能および1人操作に関する基準の出典。
  • 内閣府「阪神・淡路大震災教訓情報資料集」 ― 地震火災285件の同時多発、消防力の限界、住民および自衛消防隊による消火活動(病院の屋内消火栓による近隣民家火災の消火を含む)に関する記録。
  • 総務省消防庁『消防白書』 ― 阪神・淡路大震災を踏まえた消防防災体制および住民による初期消火の位置づけに関する出典。

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ケン
ケン

元消防士|消防・救助・救急・日勤 計15年の現場経験を持つ防災ライター。現場を知る人間にしか書けない、リアルで実用的な防災情報を発信しています。