熱中症の応急処置|元消防士が教える「救急車を呼ぶ判断」とやってはいけない処置
救急の現場を15年見てきて、これは何度も聞いた言葉でした。熱中症は、数十分で急に悪くなります。そして厄介なのは、本人がいちばん「大丈夫」と言うことです。
この記事では、消防歴15年の僕(ケン)が、日本救急医学会のガイドラインと環境省のマニュアルをもとに、救急車を呼ぶ判断基準・正しい冷やし方・やってはいけない処置を整理します。
次のどれか1つでもあてはまるなら、迷わず119番してください。
- 呼びかけへの反応がおかしい(受け答えがかみ合わない・もうろうとしている・意識がない)
-
自分で水を飲めない
- 自分で歩けない・立てない(受け答えがはっきりしていても、です)
- けいれんしている
救急車を待つ間は、涼しい場所へ移し、首すじ・わきの下・足のつけ根を冷やし続ける。意識がはっきりしない人に、水を飲ませないでください(気管に入る危険があります)。
まもる 熱中症って、どのくらいで救急車を呼ぶべきなんでしょう?大げさかなって迷いそうです。
ケン その迷いが、いちばん危ないんだ。判断の目安はちゃんとある。今日はそれを覚えて帰ってほしい。あとね、「大丈夫です」と言う人こそ危ない——これは現場でずっと感じてきたことなんだ。
この記事でわかること
救急車を呼ぶ判断基準
まず、いちばん大事なところです。次のどれか1つでもあれば、ためらわず119番してください。
| サイン | なぜ危険か |
|---|---|
| 呼びかけへの反応がおかしい | 意識障害=重症(III度以上)のサイン。命にかかわります |
| 自分で水を飲めない | 自力で水分をとれない=点滴が必要な状態です |
| 自分で歩けない・立てない | 脱水や筋肉の障害が進んでいるサイン。受け答えがはっきりしていても危険です |
| けいれんしている | 全身の異常。すぐに医療の介入が必要です |
| 全身が熱いのに、汗が出ていない | 体温調節が壊れかけているサインです |
とくに覚えてほしいのが、「自分で水を飲めない」です。これはとてもわかりやすい線引きです。水を飲ませようと粘っている時間が、そのまま手遅れにつながります。
見落とされがちな「歩けない」というサイン
現場でずっと気になっていたことがあります。
受け答えがはっきりしていても、「自分で歩けない」なら救急車を呼んでください。「意識があるかどうか」ばかりが注目されますが、会話ができても、立ち上がれない・足に力が入らないという人は少なくありません。これは、脱水が進んで血液が足りていないか、筋肉が壊れかけている(横紋筋融解症)サインです。
そして現実的な問題もあります。歩けない人を、家族が車に乗せて病院へ運ぶのは、想像以上に大変です。 途中で意識が落ちれば、車内では何もできません。搬送そのものを救急車に任せたほうが、本人にとっても家族にとっても安全です。
「意識はしっかりしているから、まだ大丈夫」——ここで様子を見てしまう例を、何度も見てきました。会話ができるかどうかと、体が動くかどうかは、別のものさしです。両方を確かめてください。
迷ったときは ♯7119
「呼ぶほどではない気もするけれど、心配」——そんなときは、♯7119(救急安心センター)に電話すると、看護師などが相談に応じてくれます(地域によって実施状況が異なります)。子どもの場合は♯8000(小児救急電話相談)もあります。
通報でパニックになる人は、本当に多いです。でも、最初に伝えるのは「場所・何があったか・相手の状態」の3つだけ。あとは通信員が順番に聞いてくれます。「うまく説明できないかも」と気にせず、かけてください。
詳しくは【伝えるのは3つだけ】119番通報で何を言う?にまとめています。
重症度は4段階|見分け方の目安
熱中症の重症度は、日本救急医学会のガイドラインで分類されています。2024年の改訂で、最重症の「IV度」が新しく設けられ、4段階になりました。
| 段階 | よく見られる症状 | 対応 |
|---|---|---|
| I度 | 立ちくらみ・手足の筋肉のつり(けいれん)・大量の汗 | 涼しい場所で休み、水分+塩分を補給。そばで見守る |
| II度 | 頭痛・吐き気・体がだるい・力が入らない・集中力が続かない | 医療機関へ。水が飲めない/歩けないなら119番 |
| III度 | 意識がおかしい・呼びかけへの反応が鈍い・けいれん・肝臓や腎臓の障害 | すぐ119番 |
| IV度 | 深部体温40℃以上かつ意識障害(2024年に新設) | すぐ119番。集中治療が必要な状態 |
ガイドライン自身が注意しているのですが、症状は刻々と変わります。「II度っぽいから様子を見よう」と当てはめて安心するのは危険です。分類は「どのくらい急ぐか」の目安であって、迷ったら重い側で判断するのが現場の原則です。
「大丈夫です」と言う人がいちばん危ない
ここは、現場で何度も痛感したことです。
駆けつけると、本人はこう言います。「大丈夫です」「少し休めば治ります」「救急車なんて大げさです」。
でも、体を触ると異常に熱い。受け答えは、よく聞くとどこかかみ合っていない。——熱中症は、判断力そのものを奪います。 だから本人の「大丈夫」は、いちばん信用できない情報なんです。
そして、こういう場面がとても多い。周りの人が「本人が大丈夫と言うから」と遠慮して、通報が遅れる。
熱中症の判断は、本人にさせないでください。周りが決めてください。とくに高齢の方は、暑さやのどの渇きを感じにくくなります。「エアコンはもったいない」「まだ平気」という言葉を、そのまま受け取らないことが大切です。
まもる 本人が「大丈夫」って言っても、信じちゃいけないんですね…。
ケン そう。判断力が落ちるからこそ、自分の状態がわからなくなる。だから周りの人が確かめてほしいんだ。「呼びかけへの反応」「水が飲めるか」「自分で歩けるか」——この3つ。遠慮して手遅れになるほうが、ずっとつらいから。
正しい冷やし方|3か所を狙う
体を冷やすとき、場所によって効果が大きく変わります。狙うのは、太い血管が皮膚のすぐ下を通っている3か所です。
- 首すじ(両側)
- わきの下
- 足のつけ根(太もものつけ根)
ここを保冷剤や氷のう、濡らしたタオルで冷やします。冷えた血液が全身を回るので、効率よく体温が下がります。
おでこを冷やすのは、気持ちはいいけれど体温を下げる効果は小さいです。冷却シートも同じで、応急処置としては頼りになりません。
保冷剤がないときは「水+風」
保冷剤がなくてもできる、効果的な方法があります。
皮膚に水をかけて、うちわや扇風機で風を送る。
水が蒸発するときに体の熱を奪う(気化熱)ので、しっかり体温が下がります。霧吹きがあれば理想的ですが、濡らしたタオルで肌を拭きながら風を当てるだけでも効果があります。屋外なら、これがいちばん現実的な方法です。
災害による停電で冷房が使えない状況では、この「水+風」と保冷剤が主役になります。停電時の暑さのしのぎ方はエアコンが使えないときの対処法で詳しく解説しています。
やってはいけない応急処置
善意でやってしまいがちな、けれど危険な処置があります。
①|意識がはっきりしない人に、水を飲ませる
いちばん多い、そしていちばん危ない間違いです。反応があいまいな人に水を流し込むと、気管に入って(誤嚥)肺炎を起こすことがあります。吐いている人も同じです。
飲ませるのは、自分でしっかり飲める人だけ。それ以外は「冷やしながら救急車を待つ」が正解です。
②|アルコールで体を拭く
「揮発して冷える」と言われることがありますが、皮膚への刺激が強く、すすめられません。飲酒も同様にNGです。アルコールは尿の量を増やして、体の水分をさらに失わせます。
③|「寒がっているから」と毛布をかける
III度以上になると、体温が異常に高いのに寒気を訴えることがあります。ここで温めてしまうと、体温がさらに上がって危険です。本人が寒がっても、冷やし続けてください。
④|解熱剤を飲ませる
熱中症の高体温は、風邪の熱とは仕組みが違います。解熱剤は効きません。 必要なのは、体を物理的に冷やすことです。
⑤|炎天下や暑い部屋に留まったまま処置する
涼しい場所へ移さないと、いくら冷やしても体温は下がりません。まず移動が応急処置の第一歩です。
救急車を待つ間にできること
119番したあと、到着までの数分でできることをまとめます。
- 涼しい場所へ移す(冷房のある室内、なければ日陰の風通しのよい場所)
- 衣服をゆるめる(ベルト・襟元・靴下)
- 首すじ・わきの下・足のつけ根を冷やし続ける
- 皮膚に水をかけ、風を送る
- 自分で飲める人には、経口補水液かスポーツドリンクを少しずつ
- そばを離れず、呼びかけて反応を確かめ続ける(状態が変わったら救急隊に伝える)
到着したとき、いつから・どんな症状で・何をしたかを伝えてもらえると、その後の処置がスムーズになります。「30分前から反応が鈍い」「水は飲めていない」——この一言が、とても役に立ちます。
まもる 待っている間も、やれることがたくさんあるんですね。
ケン そう。救急車が来るまでの数分で、その後が大きく変わることがある。「呼んで終わり」じゃなく、冷やし続けてほしい。それが救急隊にとっても、いちばんありがたいバトンなんだ。
よくある質問
読者の方からよくいただく質問に、まとめてお答えします。
Q. 救急車を呼ぶのは大げさでは?と気が引けます
遠慮しないでください。 熱中症は数十分で悪くなり、III度以上では命にかかわります。判断に迷うなら♯7119で相談できますが、「反応がおかしい」「水が飲めない」があるなら相談は飛ばして119番です。搬送が必要なかったとしても、それは悪いことではありません。
Q. 水よりスポーツドリンクのほうがいい?
塩分がとれるので、水よりは適しています。 ただ、いちばん適しているのは経口補水液です(水分と塩分の比率が補水に最適化されています)。スポーツドリンクは糖分が多いので、大量に飲むと薄めて飲むほうがよい場合もあります。手元にあるもので構いませんが、水だけを大量に飲むのは避けてください(体の塩分が薄まって、かえって具合が悪くなることがあります)。
Q. 症状が軽い場合、病院に行くべき?
I度で、涼しい場所で休んで回復し、自分で水が飲めているなら、様子を見て構いません。 ただしそばで見守ることが条件です。頭痛や吐き気が出てきた(II度)、反応が鈍くなった——このときは受診・通報に切り替えてください。
Q. 会話はできるけれど、ふらついて歩けません。様子を見ていい?
救急車を呼んでください。 意識がはっきりしていても、立てない・歩けないのは、脱水や筋肉の障害が進んでいるサインです。加えて、歩けない人を自家用車で病院へ運ぶのは危険をともないます(車内で状態が悪化しても対応できません)。会話ができるかどうかと、体が動くかどうかは別の判断材料です。
Q. 回復したように見えても、注意すべき?
はい。 熱中症は、いったん落ち着いたように見えて、あとから悪くなることがあります。とくに尿の色が濃い・茶色っぽい場合は、筋肉が壊れているサイン(横紋筋融解症)の可能性があるので、受診してください。当日は無理をせず、涼しい場所で過ごしてください。
Q. 子どもと高齢者で、気をつけることは違う?
どちらも重症化しやすいので、より早めの判断が必要です。子どもは体温調節の力が未熟で、地面の照り返しも受けやすい。高齢者は暑さやのどの渇きを感じにくく、「大丈夫」と言いがちです。どちらも本人の申告に頼らず、周りが判断してください。 高齢の家族への声かけについては高齢者の防災の記事もあわせてご覧ください。
まとめ|迷ったら、重い側で判断する
| ポイント | 要点 |
|---|---|
| ⭐⭐⭐ | 反応がおかしい・自分で水が飲めない・けいれん → 迷わず119番 |
| ⭐⭐⭐ | 自分で歩けない・立てないなら、会話ができても119番 |
| ⭐⭐⭐ | 意識がはっきりしない人に水を飲ませない(誤嚥の危険) |
| ⭐⭐⭐ | 本人の「大丈夫」を信じない。周りが判断する |
| ⭐⭐ | 冷やすのは首すじ・わきの下・足のつけ根。おでこは効果が小さい |
| ⭐⭐ | 保冷剤がなければ「皮膚に水+風」で気化熱を使う |
| ⭐ | 寒がっても温めない・解熱剤は効かない・アルコールで拭かない |
熱中症は、正しく対応すれば助かる病気です。でも、判断が遅れると命を落とします。そして遅れる理由は、たいてい「大げさかな」という遠慮でした。
今日やること:この記事の「119番するサイン」を、家族に口で伝えてみてください。反応がおかしい・水が飲めない・歩けない・けいれん。この4つを家族が知っているだけで、いざというとき数十分早く動けます。
参考・出典
- 日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」 ― 重症度分類(I度〜IV度・2024年にIV度を新設)および症状が刻々と変化する点に関する出典。
- 環境省「熱中症環境保健マニュアル」「熱中症予防情報サイト」 ― 応急処置の手順・冷却する部位・誤嚥への注意に関する根拠。
- 総務省消防庁「熱中症の応急手当」「♯7119 救急安心センター事業」 ― 通報の判断・救急相談窓口に関する出典。
- 厚生労働省「職場における熱中症予防対策マニュアル」 ― 「普段通りに歩けない」場合の救急搬送の判断に関する根拠。
- 厚生労働省「停電時における熱中症予防について」 ― 冷房が使えない状況での注意点に関する根拠。